思い出の黄金桂

ロ・ヴー

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黄金桂


少し前のこと、今風に言うと「イケテル」青年がフラリとお店に来ました。
テーブル席に座り、注文されたお茶は『黄金桂』

席にお茶のセットをお持ちして、お茶は、こちらでお淹れした方がよいか
お客様自身で淹れられるか尋ねたら「自分で淹れます」。

フム。

ロ・ヴーをよくご存知の方はお解りになると思いますが、大体のお客様は
一煎目は淹れて欲しいと希望されます。

ご自身でちゃんと中国茶を淹れられる大学生風の男の子。
彼は何者だろう?
そんなことをボンヤリ考えていたら、お帰りの際、お客様の方から
声をかけてくれました。
「黒みつゼリーはもうやっていないんですか?」

何年か前、妹さんが覚王山の病院に通っていて、その時、母親と妹さんと3人で
何度かロ・ヴーに来ていた、ということでした。
そして当時、ロ・ヴーの黒みつゼリーが大好きだったのだと。


私の中で、一人の男の子の顔が思い出されました。
彼がいつも注文していたのが、黄金桂と黒みつゼリー。

ロ・ヴーで黄金桂を飲んで、中国茶が気に入り、茶器セットを買おうかどうしようか
とっても悩んでた。
だって、中学生にとっては高価なお買い物だから。

お母様に「病院が終わって、それでもまだ欲しかったら、帰りに寄って買えば
いいでしょう?」そう言われて、しぶしぶお店を後に。

それからしばらくして、やっぱり彼は戻ってきて、嬉しそうに、ギフト用の
茶器セット5,000円(だったと思う)を、お年玉で買って帰られたのでした。

一度だけ、お母様と妹さんが病院にいる間に、一人でやって来て、
カウンターに座られたことがありました。
彼が美術クラブにいること、黄金桂が好きなこと、そんなたわいもない
おしゃべりをしたことがあります。

背も高くなり、すっかり男らしくなったこの青年は、私より背が低くて可愛い
印象の男の子だった彼なのかしら?

「僕ももう大学生になりました」

そう言ってくれた彼に「あの時の僕かな」と、聞く勇気がなかったことが
悔やまれます。
でも、それくらい大人になっていた。

黄金桂を買ってくれた彼の手元には、あの時の茶器はまだあるのかしら。
次にお会いできたら、今度は勇気を出して、ちゃんと聞けますように。

By サ
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Posted byロ・ヴー